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代表的な認知症治療薬と副作用

「認知症の薬を飲み始めてから元気がなくなった気がする」「眠っている時間が増えたけれど、副作用なのだろうか」。

このような不安を感じている患者さんやご家族は少なくありません。

インターネットやSNSにはさまざまな情報がありますが、「副作用が怖いから」と自己判断で薬をやめてしまい、かえって症状が悪化してしまうケースもあります。

認知症治療では、薬の効果だけでなく副作用について正しく理解し、症状や体調に合わせて治療を続けていくことが大切です。

しかし、眠気やふらつき、食欲低下などの変化は、認知症の進行によるものなのか、副作用によるものなのか判断が難しいこともあります。

そのため、一人で悩まず、医師や薬剤師など専門家へ相談しながら治療を進めることが重要です。

実際に認知症治療に関するトラブルの背景には、「正しい情報が不足していた」「相談先が分からなかった」というケースも少なくありません。

この記事では、認知症治療薬の役割や代表的な副作用、副作用が出やすいタイミング、家族が気づきたい変化のサインについてわかりやすく解説します。

さらに、副作用が心配な方に向けて薬以外の治療選択肢についても紹介しますので、後悔しない治療選びの参考にしてください。

認知症の薬について|副作用が気になる方へ

認知症の薬と聞くと、副作用が心配になる方も多いでしょう。

実際に吐き気や眠気などがみられることはありますが、薬にはそれぞれ使う目的があります。

まずは認知症治療で薬がどのような役割を担っているのかを知り、副作用との向き合い方を考えていきましょう。

認知症治療薬にはどんな役割がある?

認知症の薬と聞くと一種類だけをイメージしがちですが、実際には目的によって使い分けられています。


現在の治療で中心となっているのは、記憶力や判断力など認知機能の低下をできるだけ緩やかにする薬です。

これらは脳内で情報を伝える神経伝達物質の働きを助けたり、神経細胞への過剰な刺激を抑えたりすることで、今ある機能を維持することを目指します1

一方で、認知症では物忘れだけでなく、不安が強くなる、怒りっぽくなる、眠れなくなる、幻覚や妄想が現れるといった変化がみられることがあります。

こうした行動・心理症状(BPSD)が日常生活に大きな影響を与えている場合には、抗精神病薬や抗うつ薬、睡眠薬、漢方薬などが使われることもあります2

さらに近年では、アルツハイマー病の原因の一つと考えられているアミロイドβという異常なたんぱく質に直接働きかける新しい治療も登場しています。

従来の薬が症状の進行を緩やかにすることを目的としていたのに対し、病気の進行そのものへアプローチすることを目指している点が特徴です3

認知症治療薬はすべて同じ働きをするわけではありません。

そのため、薬を選ぶ際には「どのような症状に困っているのか」「何を目標に治療するのか」が大切になります。

代表的な認知症治療薬と副作用

認知症治療薬にはいくつかの種類があり、期待される効果だけでなく副作用の特徴も異なります。

ただし、副作用の現れ方には個人差があり、すべての人に起こるわけではありません

まずは代表的な薬の種類を確認しておきましょう。

認知症治療薬の代表的な副作用

認知症治療薬の副作用は薬の種類によって異なりますが、比較的よくみられるのは消化器症状や眠気、めまいなどです。

すべての人に起こるわけではありませんが、治療を始める前にどのような症状が現れる可能性があるのかを知っておくと、異変に早く気づきやすくなります。

とくにアセチルコリンエステラーゼ阻害薬では、吐き気や嘔吐、下痢などの消化器症状が比較的多くみられます4

また、脈が遅くなる徐脈や失神などの循環器系の副作用が報告されているため、もともと心疾患がある場合は注意が必要です5

精神症状に対する薬では、眠気やふらつきによる転倒リスクが問題になることがあります。

認知症のある高齢者では骨折や肺炎などにつながることもあるため、歩行状態や日中の様子に変化がないか確認することが大切です。

また、近年使用が広がっている抗アミロイドβ抗体では、脳のむくみや脳出血が起こることがあります6

頻度は高くありませんが、頭痛や意識の変化などがみられた場合には早めの対応が必要です。


副作用は薬の種類によって現れ方が異なりますが、「いつもと様子が違う」という変化が最初のサインになることも少なくありません。

副作用が出やすいタイミング・体質による違い

認知症治療薬の副作用は、すべての人に同じように現れるわけではありません。

年齢や体調、持病の有無、服用している薬の種類によっても起こりやすさは変わります。

とくに注意したいのが、薬を飲み始めた直後や用量を増やしたタイミングです。

コリンエステラーゼ阻害薬でみられる吐き気や下痢などの消化器症状は、開始時や増量時に現れやすいことが知られています7

また、高齢になると肝機能や腎機能が低下しやすくなり、薬を分解したり体外へ排出したりする力が弱くなります。

その結果、若い世代よりも薬が体内に長く残り、副作用が現れやすくなることがあります8

すでに高血圧や糖尿病、不眠症などで複数の薬を服用している場合も注意が必要です。

薬の種類が増えるほど相互作用や飲み間違いのリスクが高まり、副作用の原因を特定しにくくなることがあります。

副作用は薬そのものだけでなく、そのときの体調や服薬状況によっても起こりやすさが変わります。

新しく薬を始めた時期や処方内容が変わった時期は、普段より体調の変化に気を配ることが大切です。

家族や介護者が気づきやすい「変化のサイン」

認知症の薬による副作用は、本人が自覚しにくいことがあります。

そのため、日常生活を一緒に過ごしている家族や介護者が変化に気づくことが早期発見につながります。

難しいのは、副作用と認知症の進行が似たような形で現れることがある点です。

例えば、会話が減った、ぼんやりしている時間が増えた、以前より動きがゆっくりになったといった変化は、認知症の進行と思われがちですが、薬の影響による眠気や過度の鎮静が関係していることもあります。

また、ふらつきや転倒が増えた場合も注意が必要です。

高齢者では転倒が骨折や寝たきりにつながることもあるため、「年齢のせいだろう」と見過ごさず、薬を始めた時期や増量した時期と重なっていないか確認してみましょう。

「いつもと違う」が続くときは、認知症の進行と決めつけないことが大切です。

とくに薬を開始した直後や処方内容が変わったあとに現れた変化は、副作用が関係している可能性もあります。

気になる症状が続く場合は、早めに医師や薬剤師へ相談しましょう。

薬の副作用かも?と思ったときの対応方法

認知症治療薬を使用していると、体調の変化が副作用によるものなのか、それとも認知症の進行や別の病気によるものなのか迷うことがあります。

気になる症状が出たときは自己判断で薬を中止せず、症状を整理したうえで医師へ相談することが大切です。

医師に相談するタイミングと伝えるポイント

これまでになかった症状が現れた場合は、一度医師や薬剤師へ相談しましょう。

とくに、食事がとれないほどの吐き気や嘔吐、転倒につながるふらつき、失神、強い眠気などがある場合は早めの相談が必要です。

抗アミロイドβ抗体による治療を受けている場合は、強い頭痛や意識の変化、けいれん、歩きにくさなどが現れた際に速やかに医療機関へ連絡しましょう。

脳のむくみや脳出血などの重い副作用が関係している可能性があります。

受診時には、「いつから症状が始まったか」「薬を始めた時期や増量した時期」「どのような変化があったか」を具体的に伝えることが大切です。

気になる症状があっても、自己判断で薬を中止しないことが大切です。

副作用と思われる症状でも、薬の調整や変更によって改善できることがあります。

副作用に早く気づくためにできるサポート

副作用を完全に防ぐことはできませんが、日頃から体調や服薬状況を確認しておくことで、異変に早く気づける可能性があります。

認知症では本人が症状をうまく伝えられないこともあるため、家族や介護者のサポートが重要になります。

食欲、睡眠、排便状況、転倒の有無などを簡単に記録しておくと、症状がいつ頃から始まったのかを振り返りやすくなります。

また、飲み忘れや重複服用を防ぐ工夫も大切です。

認知症では服薬管理が難しくなり、意図しない飲み間違いが体調不良の原因になることがあります。

「何となく元気がない」「最近様子が違う」と感じた段階で記録を残しておくことが、副作用の早期発見につながります。

小さな変化でも継続して観察することで、受診時により正確な情報を伝えやすくなります。

副作用をできるだけ抑えるために日常でできること

認知症治療薬の副作用は薬の種類や体質によって異なりますが、日常生活の工夫によって負担を軽減できることもあります。

薬そのものだけでなく、睡眠不足や脱水、体調不良などが影響して症状が強く現れることもあるため、日頃の体調管理も大切なポイントです。

飲み方・タイミングの工夫

認知症治療薬は種類によって服用方法が異なります。

吐き気や胃の不快感が出やすい薬では、食後に服用することで負担が軽くなることがありますが、薬によって適したタイミングは異なります。

そのため、飲み方を変えたい場合は医師や薬剤師へ相談することが大切です。

また、高齢になると飲み忘れや重複服用が起こりやすくなります

認知症では比較的早い段階から服薬管理が難しくなることもあるため、一包化や服薬カレンダー、お薬ボックスなどを活用しながら管理しやすい環境を整えることが勧められています9

飲み忘れや重複服用を防ぐことは、副作用の予防だけでなく、体調変化の原因を把握しやすくするためにも役立ちます。

体調管理・睡眠・水分補給の意識

同じ薬を服用していても、その日の体調によって副作用の感じ方が変わることがあります。

とくに高齢者では薬を分解したり排出したりする働きが低下しやすく10体調不良が重なると眠気やふらつきなどが強く現れることがあります。

睡眠不足が続くと日中の眠気や集中力の低下が目立ちやすくなり、副作用との区別が難しくなることがあります。

また、水分不足は便秘や立ちくらみ、脱水の原因となり、体調悪化につながることも少なくありません。

食事量が減っているときや発熱、下痢などで体調を崩しているときは、普段よりも体の負担が大きくなっています。

こうした時期に体調の変化が現れた場合は、薬だけが原因とは限らないことも知っておきたいポイントです。

副作用を完全に防ぐことはできませんが、体調を整えることで負担を軽減できる場合があります

普段と違う変化が続くときは、薬だけでなく生活リズムや体調面もあわせて振り返ってみることが大切です。

副作用が心配な方へ|別の治療法という選択肢も

認知症治療薬は現在の認知症治療の中心となる方法ですが、副作用への不安から治療に迷いを感じることもあります。

ただし、認知症治療は薬物療法だけではありません

薬物療法以外の方法も研究や実用化が進んでおり、身体への負担や生活スタイルに合わせて治療法を検討する考え方も広がっています。

大切なのは「薬を続けるか、やめるか」の二択で考えないことです。

副作用が気になる場合には、薬以外の選択肢も含めて考えることで、自分に合った治療が見つかることがあります。

幹細胞培養上清液を用いた再生医療という選択肢

認知症治療薬が症状の改善や進行を緩やかにすることを目的としているのに対し、再生医療は脳の神経細胞を保護し、脳内環境を整えることで機能回復を目指す治療です。

考え方そのものが異なるため、薬の代わりというよりも、別の方向から認知症へアプローチする選択肢といえます。

近年注目されているのが、幹細胞培養上清液を用いた再生医療です。

幹細胞培養上清液とは、身体の中にある幹細胞を培養する過程で分泌される液体のことで、成長因子やサイトカインなど、細胞同士の情報伝達に関わるさまざまな成分が含まれています。

これらの成分には、脳内の炎症を抑えたり、神経細胞同士のつながりをサポートしたりする働きが期待されています。

その結果として、記憶や思考などに関わる脳機能の改善が期待される治療として注目されています。

当院では、この幹細胞培養上清液を点鼻によって投与しています。

点鼻とは、専用のスプレーを使って鼻の中へ薬剤を噴霧する方法です。

鼻の奥には嗅神経と呼ばれる神経があり、この経路を利用することで、脳へ成分を届けることが期待されています。

一般的な内服薬や点滴では、血液脳関門と呼ばれるフィルターの影響で脳へ届きにくい成分もありますが、点鼻投与は異なる経路から脳へアプローチできることが特徴です。

また、点鼻治療は注射や点滴を必要としないため、身体への負担が比較的少なく、治療時間も短時間で済みます。

認知症治療薬でみられる吐き気や眠気、徐脈などとは仕組みが異なるため、副作用への不安が強い方にとって検討しやすい選択肢の一つです。

再生医療は「薬が使えない人のための治療」ではなく、治療の選択肢を広げる方法の一つです。

よく使われる治療との比較

認知症治療にはさまざまな選択肢があります。

それぞれ期待できる効果や副作用の特徴、治療の負担は異なるため、自分に合った治療を考える際には全体像を知っておくことが大切です。

治療法によって期待できることや負担の大きさは異なります。

そのため、副作用への不安、治療を続けやすいかどうか、現在の体調などを踏まえて選ぶことが大切です。

大切なのは「どの治療が優れているか」ではなく、「どの治療が合っているか」を考えることです。

自分に合った治療を選ぶために

認知症の治療にはさまざまな選択肢があります。

薬物療法を続ける方法もあれば、再生医療を含めて検討する方法もありますが、どの治療が適しているかは症状や生活環境によって異なります。

そのため、周囲と同じ治療を選ぶことよりも、無理なく続けられる方法を見つけることが大切です。

治療を考える際には、期待できる効果だけを見るのではなく、副作用への不安や通院・服薬の負担、家族のサポート体制などもあわせて考える必要があります。

認知症は長く付き合っていく病気だからこそ、「続けられるかどうか」は治療選びの重要な判断材料になります。

また、認知症のケアは治療だけで完結するものではありません。

適度な運動や人との交流、趣味活動などを続けることは、生活の質を維持するうえでも大切です。

薬や再生医療に目が向きがちですが、日々の過ごし方も認知症ケアの一部として考えるとよいでしょう。

治療法が増えているからこそ、何を選べばよいのか迷うこともあります。

そのようなときは、一人で結論を出そうとせず、医師や専門スタッフへ相談しながら、納得できる治療法を選んでいきましょう。

よくある質問(Q&A)

認知症の薬は全員に副作用が出ますか?

認知症治療薬を使用した全員に副作用が現れるわけではありません

実際には副作用がほとんど気にならずに治療を続けている方もいます。

年齢や体質、持病の有無、服用している薬の種類などによっても現れ方は異なります。

副作用が心配だからといって最初から治療を避けるのではなく、使用中の変化を確認しながら進めることが大切です。

副作用が出たらすぐ中止すべきですか?

副作用が疑われる症状が出た場合でも、自己判断で中止することはおすすめできません

症状の程度によっては、薬の量を調整したり別の薬へ変更したりすることで改善することがあります。

また、体調不良や別の病気が原因になっていることもあるため、まずは医師や薬剤師へ相談しましょう。

急に薬をやめても大丈夫ですか?

認知症治療薬の種類によっては、急に中止することで症状が悪化したり、これまで維持できていた状態が崩れたりすることがあります。

薬をやめたいと感じた場合も、まずは医師へ相談することが大切です。

現在の症状や副作用の程度を確認しながら、減量や変更を含めて検討していきます。

再生医療は誰でも受けられますか?

再生医療を検討できるかどうかは、現在の症状や既往歴、全身状態などを確認したうえで判断します。

そのため、興味がある場合はまず診察を受け、自分の状態に合った治療法なのか相談することが大切です。

現在の治療に不安がある場合や、別の選択肢について知りたい場合は、一度相談してみることで治療の選択肢が広がる可能性があります。

診察では治療の特徴や期待できることについて説明を受けられるため、まずは情報収集の一つとして相談してみるのもよいでしょう。

点鼻タイプの治療は痛みや副作用がありますか?

点鼻治療は鼻の中へ薬剤を噴霧する方法のため、注射や点滴のような痛みはありません

また、幹細胞培養上清液による点鼻治療では重篤な副作用の報告は少なく、身体への負担を抑えながら治療を継続しやすいことが特徴です。

ただし、治療の適応や期待できる効果には個人差があるため、事前に十分な説明を受けることが大切です。

まとめ 安心して治療を選ぶために

認知症治療薬には吐き気や眠気、ふらつきなどの副作用がみられることがありますが、すべての方に起こるわけではありません。

また、副作用が現れた場合でも、薬の調整や変更によって対応できることがあります。

大切なのは、副作用だけに目を向けるのではなく、治療によって期待できることや生活への影響も含めて考えることです。

副作用があるかどうかだけで治療を判断するのではなく、期待できる効果とのバランスを考えることも大切になります。

認知症の治療には薬物療法だけでなく、抗アミロイドβ抗体や再生医療といった選択肢もあり、それぞれ特徴や負担の大きさが異なります。

副作用への不安がある場合も、一人で悩まずに相談することで治療の選択肢が広がることがあります。

認知症治療は長く向き合っていくものだからこそ、無理なく続けられる方法を見つけていくことが大切です。

参考文献

  1. 『ぜんぶわかる認知症の辞典』河野和彦監修、成美堂出版、2022年、124~125ページ
  2. 『ぜんぶわかる認知症の辞典』河野和彦監修、成美堂出版、2022年、126ページ
  3. 厚生労働省「最適使用推進ガイドライン レカネマブ(遺伝子組換え) 」2023,12、2025,06,25:https://www.mhlw.go.jp/content/001180610.pdf
  4. 日本神経学会『認知症疾患診療ガイドライン2017』(株式会社医学書院、2017年),65~66ページ
  5. 日本神経学会『認知症疾患診療ガイドライン2017』(株式会社医学書院、2017年),65~66ページ
  6. 厚生労働省「最適使用推進ガイドライン レカネマブ(遺伝子組換え) 」2023,12、2025,06,25:https://www.mhlw.go.jp/content/001180610.pdf
  7. 日本神経学会『認知症疾患診療ガイドライン2017』(株式会社医学書院、2017年),65~66ページ
  8. 日本神経学会『認知症疾患診療ガイドライン2017』(株式会社医学書院、2017年),59~60ページ
  9. 日本神経学会『認知症疾患診療ガイドライン2017』(株式会社医学書院、2017年),63~64ページ
  10. 日本神経学会『認知症疾患診療ガイドライン2017』(株式会社医学書院、2017年),59~60ページ